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賃貸物件の原状回復費用のトラブルにおける裁判所の判例

賃貸住宅の退去時に、原状回復費用のトラブルになる場合が多くあります。
賃貸人と入居者、または、不動産会社と入居者の間での交渉で解決できればいいのですが、裁判にまで発展するケースも少なくありません。
賃貸住宅のトラブルにおいて、賃貸借契約に関する法律の知識の上で入居者が圧倒的に不利になりますが、入居者にとっての強い味方になるのが裁判所の過去の判例です。
なぜなら、過去の判例を重視する日本の裁判制度において、同じような案件には同じような判断が下される可能性が高いからです。
ここでは、過去に裁判所で争われた事例と、裁判所の判断について紹介します。



通常の使用による汚損・損耗は特約にいう原状回復義務の対象にはならないとされた事例
東京地方裁判所判決 〔敷金24万円 返還24万円(全額)〕

事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、賃貸人Yから昭和62年5月本件建物を賃料12万円で賃借し、その際賃貸人Yに敷金24万円を差し入れた。
平成5年4月本件契約は合意解除され、同日賃借人Xは賃貸人Yに本件建物を明け渡したが、賃貸人Yが敷金を返還しないので、その返還を求めた。
賃貸人Yは本件建物の明け渡しを受けた後、畳の裏替え、襖の張替え、じゅうたんの取替え及び壁・天井等の塗装工事を行い、その費用として24万9780円を支出したと主張した。
なお、本件契約には、「賃借人Xは賃貸人Yに対し、契約終了と同時に本件建物を現(原)状に回復して(但し賃貸人の計算に基づく賠償金をもって回復に替えることができる)、明け渡さなければならない」という特約があった。
これに対して原審(豊島簡易裁判所判決、判決年月日不明)は、賃借人Xの主張を容認し、賃貸人Yが控訴した。
判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)本件における「原状回復」という文言は、賃借人の故意、過失による建物の毀損や通常でない使用方法による劣化等についてのみその回復を義務付けたとするのが相当である。
(2)賃借人Xは、本件建物に居住して通常の用法に従って使用し、その増改築ないし損壊等を行うともなく本件建物を明け渡したが、その際又は明け渡し後相当期間内に賃貸人Yや管理人から修繕を要する点などの指摘を受けたことはなかった。
(3)賃借人Xは本件契約を合意更新するごとに新賃料1 か月分を更新料として支払ったが、賃貸人Yは本件建物の内部を見て汚損箇所等の確認をしたり、賃借人Xとの間でその費用負担について話し合うことはなかった。
(4)以上から、賃借人Xは本件建物を通常の使い方によって使用するとともに、善良な管理者の注意義務をもって物件を管理し、明け渡したと認められるから、右通常の用法に従った使用に必然的に伴う汚損、損耗は本件特約にいう原状回復義務の対象にはならないとし、賃借人Xの請求を認容した原判決は相当であるとして、賃貸人Yの請求を棄却した。


通常損耗補修特約は合意されたとはいえず、仮に通常損耗補修特約がなされていたとしても、消費者契約法10 条に該当して無効とされた事例
東京地方裁判所判決 〔敷金43万6000円 返還43万6000円〕

事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃貸人Yは、賃借人Xに対し平成18年10月1日ころ、本件居室につき、賃料月額21万8000円、共益費月額2万3000円、期間2年間(ただし10か月程度の仮住まい)との約定で賃貸した。
賃借人Xは、敷金として金43万6000円を賃貸人Yに交付した。
本件賃貸借契約には、賃借人の原状回復として入居期間の長短を問わず、本件居室の障子・襖・網戸の各張替え、畳表替え及びルームクリーニングを賃借人の費用負担で実施すること(第19条5号)、退去時の通常損耗及び経年劣化による壁、天井、カーペットの費用負担及び日焼けによる変化は負担割合表によることとし、障子・襖・網戸・畳等は消耗品であるため居住年数にかかわらず張替え費用は全額賃借人の負担となること(第25条2項、負担割合表)という規定があった。
賃借人Xは平成19年4月末ころ、同年5月30日限りで本件賃貸借契約を解約する旨を賃貸人Yに対して通知し、同年5月30日に本件居室を明け渡した。
賃貸人Yは賃借人Xが負担すべき原状回復費用は48万円3000円であるとして、敷金を返還しなかったため、賃借人Xが敷金の返還等を求めて提訴した。
判決の要旨
これに対して裁判所は、最高裁判所平成17年12月16日判決を引いた上で、
(1)原状回復についての本件賃貸借契約19条5号は、本件居宅に変更等を施さずに使用した場合に生じる通常損耗及び経年変化分についてまで、賃借人に原状回復義務を求め特約を定めたものと認めることはできない。また、修繕についての本件賃貸借契約25条2項・借主負担修繕一覧表等によっても、賃借人において日常生活で生じた汚損及び破損や経年変化についての修繕費を負担することを契約条項によって具体的に認識することは困難である。
さらに、原状回復に関する単価表もなく、畳等に係る費用負担を賃借人が明確に認識し、これを合意の内容としたことまでを認定することはできない。よって、通常損耗補修特約が合意されているということはできない。また、敷金とは別に礼金(月額賃料の2か月分)の授受があるにもかかわらず、賃借人が本件居室を約8か月使用しただけで、その敷金全額を失うこととなることについて、客観的・合理的理由はない。
(2)仮に形式的な通常損耗補修特約が存するとしても、通常損耗補修特約は民法の任意規定による場合に比し、賃借人の義務を加重している。また、本件の通常損耗補修特約は賃借人に必要な情報が与えられず、自己に不利であることが認識されないままなされたものであり、しかも賃貸期間が約8か月で特段の債務不履行がない賃借人に一方的に酷な結果となっており、信義則に反し賃借人の利益を一方的に害しており、消費者契約法10条に該当し、無効である。
(3)以上から、賃借人Xの請求を認めた。


通常損耗を賃借人の負担とし、解約手数料を賃借人の負担とする特約が消費者契約法により無効とされた事例
京都地方裁判所判決 〔敷金20万円 返還20万円〕

事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、賃貸人Yと平成12年5月、月額賃料4万1000円で賃貸借契約を締結し、保証金20万円を差入れた。
本件契約書には、賃借人が本件契約を解約した場合に解約手数料として賃料の2か月相当額を支払う旨の特約(解約手数料特約)と、本件物件の汚破損、損耗又は附属設備の模様替えその他一切の変更について、賃借人が負担するとの特約(原状回復特約)が付された。
本件契約は平成14年6月に更新された後、賃借人Xが平成16年4月20日に解約申入れをして終了し明け渡したが、賃貸人Yは本件特約条項に基づき、解約手数料として4万4000円、原状回復費用として9万9780円を、その他清掃代として3万円を保証金から差引く旨通知した。
これに対して、賃借人Xは本件特約がいずれも消費者契約法等に反して無効であり、清掃については特に汚損をしていないこと等を理由に負担しないと主張し、保証金の返還を求めて提訴した。
一審(京都簡易裁判所)は、賃借人Xの請求を認めたが、賃貸人Yはこれを不服として控訴し、併せて、未払更新料4万1000円の反訴請求がなされた。
判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)解約手数料特約について、本件契約の終了により本件物件が空室となることによる損失を填補する趣旨の金員を解して中途解約に伴う違約金条項と解釈して、本件契約が解約申入れから45日間継続するとされていることを指摘し、本件中途解約による損害が賃貸人Yに生じるとは認められず、消費者契約法9条1号により無効であるとした。
(2)原状回復特約については、本件契約が平成14年6月1日に更新されていることから、消費者契約法の適用があることを指摘し、通常の使用による損耗に対する原状回復費用を賃借人の負担とする部分は、賃借人の義務を加重し、信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものであるから、消費者契約法10条により無効であるとした。
(3)以上から、トイレ・エアコン・キッチン等の清掃費用については、賃借人Xには通常の使用による損耗を原状回復する義務はないとした。


原状回復の特約条項は故意過失又は通常でない使用による損害の回復を規定したものと解すべきとした事例
東京簡易裁判所判決 〔敷金33万4000円 返還32万1000円〕

事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、昭和60年3月16日、賃貸人Yとの間で都内の賃貸住宅について賃貸借契約を締結した。
賃料月額16万7000円、敷金33万4000円であった。賃借人Xは、平成7年12月1日に本件建物を退去して賃貸人Yに明け渡した。賃貸人Yは、その後原状回復費用としてビニールクロス張替え費用等22項目合計56万5600円を支出し、本件契約の「明け渡しの後の室内建具、襖、壁紙等の破損、汚れは一切賃借人の負担において原状に回復する」との条項により、敷金を充当したとして一切返還しなかった。
このため賃借人Xは、入居期間中に破損した襖張替え費用1万3000円を差し引いた32万1000円の返還を求めて提訴した。
判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)建物賃貸借契約に原状回復条項があるからといって、賃借人は建物賃借当時の状態に回復すべき義務はない。賃貸人は、賃借人が通常の状態で使用した場合に時間の経過に伴って生じる自然損耗等は賃料として回収しているから、原状回復条項は、賃借人の故意・過失、通常でない使用をしたために発生した場合の損害の回復について規定したものと解すべきである。
(2)部屋の枠回り額縁のペンキ剥がれ、壁についた冷蔵庫の排気跡や家具の跡、畳の擦れた跡、網戸の小さい穴については、10年近い賃借人Xの賃借期間から自然損耗であり、飲み物をじゅうたんにこぼした跡、部屋の家具の跡等については、賃借人が故意、過失または通常でない使用をしたための毀損とは認められない。
(3)以上から、賃借人Xの請求を全面的に認めた。


過失による損傷修復費用のうち経年劣化を除いた部分が賃借人の負担すべき費用とされた事例
東大阪簡易裁判所判決 〔敷金27万9000円 返還21万9092円〕

事案の概要(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y)
賃借人Yは、平成9年5月、賃貸人Xと月額賃料9万3000円で賃貸借契約を締結し、敷金として27万9000円を差し入れた。
本件賃貸借契約書には、「畳の表替え又は裏返し、障子又は襖の張替え、壁の塗替え又は張替え等は賃借人の負担とする。」旨の条項があった。
賃借人Yは、平成14年1月、本件賃貸借契約の解約を申し出、同年2月、本件物件を明け渡した。
ところが、賃借人Yの退去後の本件物件には、壁クロスに多数の落書き・破損、ビス穴等があり、また、床カーペットには多数の汚損があった(貸主Xの主張)ことから、賃貸人Xは、その原状回復の費用として35万6482円を要するとして、延滞賃料等5万6588円との合計額を敷金返還債務と対当額で相殺すると差し引き13万4070円が不足するとして、賃借人Yに支払を求めたが、これを拒まれたため、提訴に及んだ。
これに対し、賃借人Yは、反訴を提訴し、賃借人Yには本物件をリフォームして新築時と同様になる様にクロスやカーペットの張替え、畳の表替えなどをすべき義務はなく、賃借人Yの負担すべき費用は、壁クロスのうち、子供が落書きした11㎡部分のみである。
そして、入居時新品であったクロスでも、57か月経過後の退去時には、残存価額は28.75%になるから、クロスの㎡単価1050円に11㎡を乗じた後の28.75%である3320円が賃借人Yの負担すべき費用であると主張して、賃貸人Xに対し、敷金から賃借人Yの負担部分及び延滞賃料等を控除した残額21万9092円の返還を求めた。
判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)賃借人Yの自認する過失(子供の落書き)による損害及び争いのない延滞賃料等を除くと、賃貸人Xが原状回復費用として請求する金額は、経年変化及び通常使用によって生ずる減価の範囲のものと認められる。
(2)以上から、賃貸人Xの請求は理由がなく、賃借人Yの請求には理由があるとして賃借人Yの請求を全面的に認めた。


経過年数を考慮した賃借人の負担すべき原状回復費用が示された事例
東京簡易裁判所判決 〔敷金14万2000円 返還9万3294円〕

事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、平成11年3月、賃貸人Yと賃料月額7万1000円で賃貸借契約を締結し、敷金14万2000円を差し入れた。
賃借人Xは、平成13年3月、本件契約を賃貸人Yと合意解除し、本物件を賃貸人Yに明け渡したが、賃貸人Yは賃借人Xに対し、本物件の壁ボードに空けられた穴、その他の修理費及び清掃業者による清掃費用等、原状回復費用として合計24万4100円を支出したとして、賃借人Xに返還すべき敷金14万2000円及び日割戻し賃料1万1774円の合計15万3774円を対等額で相殺した後の残金9万326円の支払を求めて提訴した。
他方、賃借人Xは、敷金の精算に関しては、壁ボードの穴の修理費用のほかは、賃借人Xの負担部分はない、その修理費用は保険の適用を受けて支払うとして、敷金を含む15万3774円の支払を求めて提訴した。
判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)壁ボードの穴については、賃借人Xの過失によるものであることに争いがないので、賃借人Xは修理費用全額1万5000円を負担すべきである。
(2)壁ボード穴に起因する周辺の壁クロスの損傷については、少なくとも最小単位の張替えは必要であり、これも賃借人Xが負担すべきである。なお、その負担すべき範囲は約5㎡であり、本件壁クロスは入居の直前に張替えられ、退去時には2年余り経過していたから残存価値は約60%である。そうすると賃借人Xが負担すべき額は、㎡単位1700円に5を乗じた金額の60%である5100円となる。
(3)台所換気扇の焼け焦げ等は、賃借人Xの不相当な使用による劣化と認められる。なお、換気扇が設置後約12年経過していることから、その残存価値は新規交換価格の10%と評価される。よって賃借人Xは換気扇取替え費用2万5000円の10%の2500円を負担すべきである。
(4)証拠によれば、賃借人Xの明け渡し時に、通常賃借人に期待される程度の清掃が行われていたとは認められず、賃貸人Yが業者に清掃を依頼したことはやむを得ないものと認められる。そして、清掃業者は居室全体について一括して受注する実情に照らせば、賃借人Xは、その全額3万5000円について費用負担の義務がある。
(5)以上から、賃借人Xが請求できるのは、返還されるべき敷金及び日割戻し賃料から6万480円(上記の合計及び消費税額)を差引いた9万3294円とした。


原状回復義務ありとするためには義務負担の合理性、必然性が必要であり更に賃借人がそれを認識し又は義務負担の意思表示をしたことが必要とした事例
伏見簡易裁判所判決 〔敷金21万6000円 返還6万6140円〕

事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、平成3年4月10日、賃貸人Yより本件建物を賃料7万2000円、敷金21万6000円(明け渡し後に返還)の約定で賃借した。
本件賃貸借契約書には、賃借人は本件建物を明け渡す際には、賃貸人の検査を受け、その結果賃貸人が必要と認めた場合は、畳、障子、襖、壁等を賃貸開始時の原状に回復しなければならないとする条項があった。
賃借人Xは、平成7年8月31日本件建物を退去した。明け渡し時に賃貸人Y側からはB が立ち会い、B は要修理箇所を書き出し、賃借人Xの負担すべき補修費用を36万8490円と算出し、賃借人Xに通知した。
しかし、賃借人Xが賃貸人Yの通知した補修(畳表替え、襖・クロス・クッションフロア張替え及び室内清掃)を行わなかったので、賃貸人Yは賃借人Xの負担においてこの補修を代行した。
賃借人Xは、賃貸人Yが敷金を返還しないとして敷金21万6000円の支払を求めたのに対し、賃貸人Yは補修費用36万8490円と敷金の差額15万2490円の支払を求めて反訴した。
判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)本件における「原状回復」という文言は、賃借人の故意、過失による建物の毀損や通常でない使用方法による劣化等についてのみその回復を義務付けたとするのが相当である。
(2)賃借人Xは、本件建物に居住して通常の用法に従って使用し、その増改築ないし損壊等を行うともなく本件建物を明け渡したが、その際又は明け渡し後相当期間内に賃貸人Yや管理人から修繕を要する点などの指摘を受けたことはなかった。
(3)賃借人Xは本件契約を合意更新するごとに新賃料1 か月分を更新料として支払ったが、賃貸人Yは本件建物の内部を見て汚損箇所等の確認をしたり、賃借人Xとの間でその費用負担について話し合うことはなかった。
(4)以上から、賃借人Xは本件建物を通常の使い方によって使用するとともに、善良な管理者の注意義務をもって物件を管理し、明け渡したと認められるから、右通常の用法に従った使用に必然的に伴う汚損、損耗は本件特約にいう原状回復義務の対象にはならないとし、賃借人Xの請求を認容した原判決は相当であるとして、賃貸人Yの請求を棄却した。


ペット飼育に起因するクリーニング費用を賃借人負担とする特約が有効とされた事例
東京簡易裁判所判決 〔敷金41万7000円 返還35万7360円〕

事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、平成12年4月、賃貸人Yと月額賃料13万9000円で賃貸借契約を締結し、敷金41万7000円を差し入れた。
本件契約書には、「本契約解約時における①室内のリフォーム、②壁・付属部品等の汚損・破損の修理、クリーニング、取替え、③ペット消毒については、賃借人負担でこれらを行うものとする。なお、この場合専門業者へ依頼するものとする。」との特約が付されていた。
なお、本物件はペット可であったので、賃借人Xは、居住期間のうち約3か月にわたり、小型犬であるチワワを、ほとんど飼育用のケージ内で飼育していた。
賃借人Xは、平成13年12月、本件契約を賃貸人Yと合意解除し本物件を賃貸人Yに明け渡した。
賃貸人Yは、本件特約等に基づく原状回復費用として、クロス、クッションフロア張替え費用、クリーニング費用等の合計50万745円の支払を求めた。
これに対し賃借人Xは、通常損耗以上の損害を与えた事実はなく、賃借人Xの負担すべき費用はないとして、敷金全額の返還を求めて提訴した。
判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)通常の建物の賃貸借において、賃借人が負担する「原状回復」の合意とは、賃借人の故意、過失による建物の毀損や通常の使用を超える使用方法による損耗等について、その回復を約定したものであって、賃借人の居住、使用によって通常生ずる損耗についてまで、それがなかった状態に回復することを求めるものではないと解するのが相当である。
(2)しかし、修繕義務に関する民法の原則は任意規定であるから、これと異なる当事者間の合意も、借地借家法の趣旨等に照らして賃借人に不利益な内容でない限り、許されるものと解される。
(3)本件特約のうち、①室内リフォームのような大規模な修繕費用を何の規定もなく賃借人の負担とする合意は、借地借家法の趣旨等に照らしても無効といわざるを得ず、②壁・付属部品等の汚損・破損の修理、クリーニング、取替えについては、前記(1)と同趣旨の原状回復の定めに過ぎないと解される。しかし、③ペットを飼育した場合には、臭いの付着や毛の残存、衛生の問題等があるので、その消毒の費用について賃借人負担とすることは合理的であり、有効な特約と解される。
(4)以上を前提とすると、①クロスについては、賃借人Xの故意・過失によって破損等の損害を生じさせた事実は認められず、ペット飼育による消毒のためであれば、張替えるまでの必要性は認められない。②クッションフロアには、賃借人Xがつけたタバコの焦げ跡があり、その部分の補修費用3800円及び残材処理費3000円は賃借人Xの負担とするのが相当である。③クリーニングについては、実質的にペット消毒を代替するものと思われ、賃借人負担とする特約は有効と認められるので、その費用全額5万円は賃借人Xの負担とするのが相当である。
(5)以上から、賃借人Xの負担すべき費用は、合計5万9640円とした。


賃借人がハウスクリーニング代を負担するとの特約を有効と認めた事例
東京地方裁判所判決 〔敷金27万円 返還12万6570円〕

事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃貸人Yは、賃借人Xに対し平成9年9月27日、本件建物(木造モルタル2階建て一戸建住宅)を賃貸し、賃借人Xは賃貸人Yに対し、同日、敷金27万円を交付した。
その後平成17年10月6日、本件賃貸借契約は、賃料月額13万円、期間2年(平成17年10月1日から平成19年9月30日まで)、明け渡しをするときは、専門業者のハウスクリーニング代を負担するとの特約(本件特約)を内容として更新された。
本件賃貸借契約の終了にあたり、賃借人Xは、賃貸借契約は平成19年4月30日に終了し明け渡しを行ったとして、賃貸人Yに対して敷金27万円の返還を求めた。
賃貸人Yは、本件特約に基づくクリーニング代、賃借人Xの通常の使用を超える損耗の原状回復のための内装工事費、内装工事終了時までの2か月分の賃料等が敷金から控除されると争った。
賃借人Xが敷金の支払を求める支払督促を申し立てたのに対し、賃貸人Yが異議を申し立てたため訴訟に移行し、原審が賃貸人Yに対して5万372円の支払い等を命じたところ、双方が控訴した。
判決の要旨
これに対して裁判所は、最高裁判所平成17年12月16日判決を引いた上で、
(1)ハウスクリーニング費用を賃借人の負担とする本件特約は、本件賃貸借契約の更新の際に作成された契約書に明記されており、その内容も、賃借人が建物を明け渡すときは、専門業者のハウスクリーニング代を負担する旨が一義的に明らかといえる。
したがって、ハウスクリーニング代は、賃借人Xが負担すべきである。
(2)本件特約以外に賃借人の原状回復義務についての特約は存在しないから、賃借人Xは、故意・過失によると認められる通常損耗を超える損耗(特別損耗)についてのみ補修の義務を負う。
(3)和室壁面のタバコのヤニによる汚損でクリーニング等によっても除去できない程度に至っている和室壁面、大きく破れている箇所が認められる和室の障子、トイレの扉やや下方の汚れ及び、和室の畳の内2枚の黄ばみと黒いシミと茶色のシミは、通常損耗を超えたものと認められる。
したがって、和室2室のクロスの張替え費用、和室障子の張替え費用、建具ダイノックシート張替え費用、畳2枚の張替え費用は、本件敷金に充当されるべきである。その他の内装工事費は、本件敷金に充当されるべきものとは認められない。
(4)本件における通常損耗を超えた損耗の補修は、通常損耗の補修と同時に行い得るものであるから、平成19年4月30日の賃借人Xの明け渡し時以後、その補修期間に相当する賃料相当損害金を敷金に充当すべき法的根拠はない。
(5)以上から、敷金のうちクリーニング代6万3000円と内装工事費8万430円を差し引いた12万6570円の支払いを賃貸人Yに対して命じた。


特約条項に規定のないクリーニング費用等の賃借人による負担が認められなかった事例
仙台簡易裁判所判決 〔敷金16万5000円 返還5万9955円〕

事案の概要(原告:賃貸人X 被告:賃借人Y)
賃借人Yは、平成9年11月、賃貸人Xと賃貸借契約を締結し、敷金として16万5000円を差し入れた。
賃借人Yは、平成11年5月、賃貸人Xと本件契約を合意解除し、本物件を賃貸人Xに明け渡したが、賃貸人Xは賃借人Yに対し、原状回復費用として、①畳修理代5万7330円、②襖張替え代3万3600円、③フロア張替え代7万6062円、④室内クリーニング代3万6750円、⑤水道未払費用1万4115円の合計21万7857円の支払を求め、敷金との差額5万2857円を請求し提訴した。
これに対し賃借人Yは、①、②及び⑤の合計10万5045円の支払は認めるが、その他の費用負担については、本件契約書の費用負担の特約に規定されておらず、説明も受けていない。
本件貸室の使用は正常でかつ善管注意をもってなし、通常の使用によって生ずる損耗、汚損を超えるものではないから、支払義務はないと主張した。
判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)本件契約の賃借人の費用負担特約条項には、フロアの張替え及びクリーニングの費用負担の規定はない。
(2)賃貸物件の通常の使用による損耗、汚損を賃借人の負担とすることは、賃借人に対し、法律上、社会通念上当然発生する義務とは趣を異にする新たな義務を負担させるというべきであり、これを負担させるためには、特に、賃借人が義務を認識し又は認識し得べくして義務の負担の意思表示をしたことが必要であるが、本件においてはこれを認めるに足りる証拠はない。
(3)本件貸室において、賃借人Yが、その居住期間中に通常の使用方法によらず生じさせた損耗、汚損があったと認めるに足りる証拠はない。したがって、賃借人Yには、フロアの張替え及び室内クリーニング費用の支払義務はない。
(4)以上から、賃借人Yの主張を全面的に認めた。


賃借人に対して和室1 室のクロス張替え費用及び不十分であった清掃費用の支払を命じた事例
春日井簡易裁判所判決 〔敷金17万4000円 追加支払5万8940円〕

事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃借人Xは、賃貸人Yの父親との間で平成2年4月16日、春日井市内のマンションの賃貸借契約を締結した。
当初契約期間は2年(以後1年毎の自動更新)、賃料月額6万4000円(契約終了時は7万4000円)、敷金17万4000円とされた。なお、賃貸人Yの父親が平成3年12月15日に死亡したため、賃貸人Yが賃貸人の地位を承継した。
賃借人Xは、本件契約が平成8年3月23日に終了したので、同日、賃貸人Yに本件建物を明け渡した。
退去日に賃借人X、賃貸人Yの妻、宅建業者の三者の立会いにより、修繕箇所の点検・確認作業を行った。
その結果、賃借人Xは、畳表、クロスの張替え費用の一部については、負担を認めたが、賃貸人Yは賃借人Xの本件建物の使用状況が通常の使用に伴って発生する自然的損耗をはるかに超えるものとし、修繕及び清掃を実施して、その費用を支出した。
賃借人Xは、賃貸借契約終了により、敷金17万4000円のうち補修費用6万2700円を控除した11万1300円及び前払賃料の日割り分1万9225円の返還を求めて提訴した。
これに対し、賃貸人Yは、修繕費用及び清掃費用の合計30万7940円と敷金17万4000円及び賃料日割返還分1万9225円の合計19万3225円とを相殺した11万4715円の支払を求めて反訴した。
判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)和室Bのクロスについては、賃借人Xの行為により毀損したものは全体の一部分であるからといって、その部分のみを修復したのでは、部屋全体が木に竹を継いだような結果となり、結局部屋全体のクロスを張替え修復せざるをえないことになるが、それはとりもなおさず賃借人Xの責によるものであるといわざるを得ない。
(2)和室Bの畳、和室A及び洗面所のクロスについては、賃貸人Yが主張するように通常の使用にともなって発生する自然的損耗をはるかに超える事実を認めるに足りる証拠はなく、和室Aの畳表替え、和室B等のクロスの張替えをする必要があるからといって、それとのバランスから和室Bの畳表替えや和室A及び洗面台のクロスについてそれをも賃借人Xに修繕義務を負わせるのは酷であり、不当であり、賃貸人Yの負担においてなすべきである。
(3)賃貸人Yが清掃費用を支払うこととなったのは、賃借人Xの退去時の清掃の不十分さに起因するものである。
(4)以上から、賃借人Xは賃貸人Yに対し、修繕費用21万2940円及び清掃費用2万円の合計23万2940円の支払義務があり、したがって、賃借人Xは賃貸人Yに差し入れている敷金及び日割計算による前払賃料の返還金の合計額19万3225円と対等額で相殺しても、なお3万9715円を支払う義務があるとした。
なお、賃借人Xが控訴したが、その後、賃借人Xの負担を敷金相当額とする和解が成立した模様。


通常の使用によって生じた損耗とは言えないとして未払使用料等含めて保証金の返還金額はないとされた事例
東京地方裁判所判決 〔敷金(保証金)31万4400円 返還0円〕

事案の概要(原告:賃借人X 被告:賃貸人Y)
賃貸人Y(大田区)は、平成10年4月27日、賃借人Xに対し、同年5月6日から使用期限の定めなく使用料月額15万7200円として大田区民住宅条例に基づき使用許可をし、保証金として31万4400円を賃借人Xは賃貸人Yに交付した。
本件使用許可は平成21年4月26日に終了し、同日賃借人Xは賃貸人Yに対し本件建物を明け渡した。
賃借人Xが本件建物を返還した際、賃借人Xには未納の使用料及び共益費13万9500円があり、同条例25条2項に基づく賠償金として29万5020円の支払義務が発生するところ、本件保証金は全額について控除されて残額は発生しないとして賃貸人Yが保証金を返還しなかったことから、賃借人Xは賃貸人Y主張の賠償金は11年の入居期間で社会通念上通常の使用により発生した相応の損耗であるから賠償責任は発生しないとして保証金31万4400円の返還を求めて提訴した。
判決の要旨
これに対して裁判所は、
(1)賃借人Xは本件建物を明け渡した際、本件建物には以下の損傷があった。
 ア 7 階(上階)洋室のバルコニー出入口前のフローリング材剥がれ 18万4000円
 イ 6 階(下階)襖(大)1 枚 破損と剥がれ1 枚・穴1 枚・しみの合計 1万3800円
 ウ 7 階(上階)台所・洗面金具1 個(浄水器が取り付けられたまま)3万5200円
 エ 同場所排水溝菊割ゴム紛失 1650 円
 オ 6階(下階)和室及び7階(上階)和室のクーラーキャップ合計3個 1万1550円
 カ 6階(下階)和室のシール剥がし跡同玄関部分のシール剥がし跡
   7階窓枠(サッシ)部分に取り付けられたフック 5か所
   6階(下階)和室窓枠部分に取り付けられたフック1か所と壁に取り付けられたフック1か所
   6階(下階)玄関脇壁に取り付けられたフック1か所
   7階(上階)外壁に取り付けられたフック8か所 合計1万9800円
 キ 6階(下階)トイレ配管 1万1000円
 ク 7階(上階)バルコニー間仕切り固定金具 1万1000円
 ケ 鍵4個 5600円
 コ 鍵(エレベータートランク) 1420円
 合計29 万5020円
賃借人Xはいずれも11年の入居期間で社会通念上通常の使用により発生した相応の損耗であるから賠償責任は発生しないと主張するが証拠に照らせばいずれも通常の使用によって生じたものとは言えないから賃借人X主張は採用できない。
(2)賃借人Xは賃料13 万円及び共益費9500 円を払っておらず、未納使用料、共益費及び賠償金合計額は43 万4520 円で、賃借人Xの交付した保証金31 万4400 円を超過しているので賃貸人Yが賃借人Xに対して還付すべき保証金はないことになる。
(3)以上から、賃借人Xの控訴を棄却した。


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